甲状腺内科
甲状腺異常は誰にでも起こりえる病気です
甲状腺疾患は比較的女性に多いと考えられていますが、実際の診療現場では男性にも多くみられています。若年期に発症される方も多く、年齢層も実にさまざまです。甲状腺疾患として特に頻度の多いものとしては「バセドウ病」と「橋本病」が挙げられますが、その他にもさまざまな要因によって異常が生じることがあります。
Q.甲状腺って?
A.甲状腺とは首の前面に位置する蝶の形に似たとても柔らかい臓器です。脳からの指令をもとに甲状腺ホルモンを分泌しており、いわば私たちの体の元気具合を調整するような役目を担っています。甲状腺ホルモンの過剰な分泌や、逆に分泌が弱まることで体調不良を来します。いずれも免疫機能に障害が起き、誤って自分自身の甲状腺を攻撃し始めることが主原因となってホルモン量の過剰な増減が起きるようになります。明らかに甲状腺が腫れていればいいのですが、わかりにくい方もいます。時間とともに全身にわたるさまざまな不調が生じ始めるため早期の治療が重要となります。
甲状腺ホルモン分泌が過剰となることで起こりやすい症状
- 動悸がする
- 息切れ
- 多汗
- イライラ
- 手の震え
- 過食
- 首の腫れ
- 眼球の突出
- 体重減少
- 下痢
- 疲れやすい
- 月経不順 など
甲状腺ホルモン分泌が低下することで起こりやすい症状
- 冷え
- 食欲低下ながらも太りやすい
- 疲れやすい
- やる気が出ない
- 動作の緩慢
- 声が枯れる
- 肌の乾燥やかゆみ
- むくみ
- 便秘
- 脱毛
- 月経不順
- 不妊
- 流産・早産 など
バセドウ病
甲状腺が異常な活発を起こし甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまう病気です。比較的若い女性に多くみられやすい疾患であり、動悸、息切れ、強い倦怠感など全身にわたるさまざまな症状に悩まされるようになるほか、首の腫れや眼球突出が特徴的にみらることもあります。自己免疫機能に障害が起きることで甲状腺機能が破壊され、ホルモンが過剰に漏れ出してしまうことが要因と考えられています。その他にも遺伝的な要因や過度なストレス、過労、喫煙などが引き金になって起きる可能性も指摘されています。
治療法について
症状や状態に応じて以下の3つの治療法が検討されます。当院においては投薬治療が主となりますが、必要に応じて高次医療機関と連携し、迅速な治療実現を図っております。
投薬治療
初期のバセドウ病などは、飲み薬を用いてホルモン量の調整を図る治療が一般的となります。アレルギーや白血球の異常、肝臓の異常などの副作用が懸念されるため最初は2週間おきに診察させていただいております。血液検査にて安全性を考慮したうえで、その方にあった治療法の選択を検討させていただきます。
放射線ヨウ素治療(アイソトープ治療)
投薬治療で一定の効果が得られない場合や状態が安定されない場合には、放射線治療が検討されます。放射線で細胞内側から甲状腺を破壊し小さくすることで、過剰なホルモン分泌を抑え込む治療法となります。破壊の程度によりその後ホルモン補充を要することもあります。妊娠希望の方は治療終了後、少なくとも半年以上は胎児への影響もあり妊娠を避けることが必要となります。
手術治療
甲状腺自体を手術で物理的に取り除くことでホルモン分泌を抑え込む治療法です。再発の心配はなくなりますが、手術の範囲によっては術後生涯にわたってホルモン剤の内服が必要となります。
橋本病について
橋本病は若い世代から中高年の方に多くみられる比較的発生頻度の高い病気です。甲状腺機能が何らかの原因によって低下することで、無気力や冷え、皮膚の異常や脱毛、睡眠障害などといったさまざまな問題を生じやすくなります。特に女性の場合には不妊や早産などの問題の関係性も示唆されており、早期に治療介入が求められます。治療法としては不足するホルモン量を投薬などで補充することで調整を図ることが基本方針となります。治療と考えず、不足分の補充とよくお伝えしております。更年期障害や鬱、認知症の症状とも混同されやすい状態となるため、専門医による診断が重要となります。橋本病の患者さんは一時的に甲状腺ホルモンが過剰となる病態もあり(無痛性甲状腺炎)、薬剤の選択からバセドウ病との鑑別が重要とされます。
甲状腺にできる腫瘍
甲状腺には腫瘍ができることもあります。良性のものと悪性のものとがあり、形状的な特徴を確認するためには超音波検査(エコー検査)を用いた画像検査があわせて必要となります。腫瘤のサイズが大きいものや悪性腫瘍が疑われると判断された場合には高次医療機関と密に連携していきます。
亜急性甲状腺炎
甲状腺に炎症が起きることで、一時的にバセドウ病のような症状が現れる疾患です。症状としては数週間程度で治まるケースが多いですが、炎症が落ち着くまでは解熱鎮痛剤やステロイド剤などを適宜用いながら経過を注意深く確認していく治療が求められます。改善後には甲状腺ホルモン値が正常化することが多いですが、時に低下したままとなり補充を要することもあります。
その他の原因によるもの
その他にも薬剤、妊娠・出産によってホルモン異常を来すなど、さまざまな要因が考えられます。他ヨード造影剤やヨウ素含有のうがい薬の過剰使用によって異常が生じる事例や、海藻類の食べ過ぎなどによっても甲状腺に影響が生じる場合もあります。
診断に必要となる各検査について
当院では以下の検査をすべて院内にてお受けいただけます。ご来院いただいた当日にも検査が可能で、結果についても短時間で詳しいご説明が可能です。
超音波検査(エコー検査)
甲状腺の腫れや炎症・腫瘤の有無、形状的な問題の有無や硬度などをリアルタイムに確認する検査です。
血液検査
血中内の甲状腺ホルモン量(TSH・FT3・FT4)や、自己免疫の抗体(バセドウ病や橋本病)についての詳細な分析を行います。
寛解を目指していく治療が基本となります
内分泌疾患の治療にあたっては、症状の安定化を図る寛解(かんかい)状態を維持することが大きな目標となります。健康診断や人間ドッグを訪れた際に偶然異常が見つかることも多く、実際の診療現場でもご自身で首元を触わった際に異変に気づかれる方も多くいらっしゃいます。甲状腺疾患をはじめとする内分泌疾患においては、早期に適切な治療を加えることができれば体調不良をきたさず生活を送ることが可能となります。長期にわたって治療が必要となる疾患でもあるため、特に女性は妊娠や出産など将来的な問題なども含めて幅広い視野で治療方針をご一緒に決定していく必要があります。
気になる症状や不安をお感じの場合にはどうぞお気軽にご相談ください。